カレ邸 Maison Carre 1956〜1959 A.AALTO / Bazoches-sur-Guyonne (near Paris) France No.31/42

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カレ邸 Maison Carre  1956〜1959  A.AALTO / Bazoches-sur-Guyonne (near Paris) France  No.31/42_c0044801_8312578.jpg
パリ郊外の閑静なバゾッシュ・シュール・グイヨン村に建つこの住宅を訪れたのは1993年の春でした。外観の多少黒ずんだ木部と、緑青のふいた銅製の照明器具が時の流れを感じさせる程度で、竣工が1959年とは思えぬほど美しい姿を見せています。また、Zurich 版のアアルト全集に載っている竣工写真で見た通りの設えと、ほとんど変わることなく住みこなされている内部は、あたかもほんの数ヶ月前に建ったかのようで、建物の至る所に、施主と建築家との厚い信頼と、深い愛情が込められて居ることを感じ取ることが出来ます。
マダム・カレのさり気ない温かなもてなしと、あこがれのメゾン・カレに身を置いている、えもいわれぬ幸福感とで半ば放心状態だったのでしょう。「どうぞご自由にご覧になって、写真もヴィデオもご随意に」と仰って頂いたにもかかわらず、暖炉でパチパチと威勢良く燃えていた大きな薪が、ガサッと崩れ落ちたのに気づくまで、アッと言う間の1時間だったような気がします。
理論の完璧な実践としての建物、新しい構造が生み出す新しい空間を持った建物、限りなく美しいプロポーションやディテールを持つ建物、そして時代を先取りした建物など、優れた建物を数え上げればきりが有りません。しかし、その空間に身を置いたとき、幸福感を味わえる建物や、立ち去りがたく後ろ髪を引かれるような建物に出会えることは、希なことと言えるでしょう。「ひと」を抽象的な人としてではなく、生身の人としてとらえ、使い手に対する細やかな愛情を、技や術に込めて造られた空間だけが、そんな出会いを与えてくれるのではないでしょうか。
by hirayama-susumu | 2005-08-24 08:32 | 31-Maison Carre カレ邸
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